群馬県館林市、同業者をも熱くさせる蕎麦屋さん「手打 玄蕎麦 ことぶき」
読者の皆さん、こんにちは!
前回は足利市のご縁のあるそば屋さんを巡ってきました。
足利市は栃木県ですが、矢場川を挟んですぐ隣は群馬県の館林市。
蕎麦食いの街である足利の隣に位置するのに、なぜか県境を越えると「うどんの街」である館林。
「土地柄」ってあるんですね。非常に興味深いです。
確かに小麦の生産地である群馬県がうどんを推すのは理解できるのですが、得てして隣の街は「蕎麦」で、こちらの街は「うどん」。
自分としてはどちらも好きなのですが、なんでそれほどクッキリ分かれてしまうのか・・、もう少しファジーでもいいのになぁ。個人の好みをも凌駕する何かがあるのでしょうか?
そんな「うどんの街」ではそば屋は圧倒的不利になってしまいそうですが、孤軍奮闘するお店も。
この付近に来たら「素通りできないそば屋」があります。
以前、このブログでも東川さんの記事で登場しました。
個人的には、同じ埼玉そば組合の「本庄たぬき 辻九」の天野さんに紹介していただいたのが始まりです。
「とにかく蕎麦に関すると、松岡修三のように熱くなるから気を付けてください」
そんな注意事項まで付け加えられる人ってそうそういませんよね?笑
「手打 玄蕎麦 ことぶき」
お店の場所は東武伊勢崎線「多々良駅」からほど近く。
国道122号線沿いにあります。
昨年9月にリニューアルし、「玄蕎麦」から自家製粉できる工房を店内に創られたという事で工房見学も事前に了承いただき、営業時間外でしたがお邪魔させていただきました。
同じ火曜日定休のお店に伺えるのはワクワクしてしまいます!
暖簾がかかっていない店内を覗くと、工房で作業するご主人の姿。
すぐに気が付かれ工房に案内していただきます。
「美味しいおそばは、良いそば粉から」を信条に
こちらのお店、そばへのこだわりが半端ないんです。
いくつか例を挙げるなら、農家さんから玄蕎麦の状態で仕入れ、そこから製粉する。お米で言えば「もみ殻」が付いたお米を仕入れ精米する、と言えば知らない人にはわかりやすいでしょうか?
また、そばを打つ時に使う打ち粉(同じ蕎麦粉ですが、生地同士または麺棒や打ち台にそばが付かないように使う粉)は通常、高価なため外国産のものが使われますが、こちらのお店では純国産の打ち粉を使用します。
良い蕎麦を作っている農家さんの噂を聞くと、遠方に顔を覚えてもらうまであしげく通い、その農家さんの作った蕎麦を機械で選り分けたあとも手作業で一粒一粒選別し、愛でるように製粉し、そば打ちをします。
なんでそこまで・・
「本当のおそばの美味しさを味わってもらいたいから」と、ご主人の阿部氏は笑いながら言います。
「美味しいおそばを作るには原材料の品質が何よりも重要なので、僕の信念であり表現方法なんですよ」
うどんの街「館林」で同業者に「それは趣味や自己満足」と揶揄されながらも、ひたすらに信じる道を突き進むその背中は多くの蕎麦屋さんの視線を受けています。
この日の玄蕎麦は「常陸秋そば」いわずと知れた美味しい蕎麦が採れる有名な産地です。お米で言うなら魚沼産こしひかり、といったところでしょうか。
それでも阿部さんは
「常陸秋そばもいいのですが、福井や摩周、なども素晴らしい蕎麦があります。特に西会津町産の玄蕎麦はここまでの仕事に導かれた思い入れのある産地です」と。
有名ブランドをも凌駕する産地、品種があるんですね!
玄蕎麦からおそばになるまでの工程
おおまかに説明しますと
1)「石抜き」石や土、蕎麦以外のゴミを取り除く。
2)「磨き」玄蕎麦に付着している土やほこりを取り除く。
3)「選別」玄蕎麦の大きさを揃える、それにより実が割れる事を防ぎその後の製粉の作業をより良くする。
4)「脱皮」玄蕎麦の黒く堅い外皮を剥き、丸抜きと言われる蕎麦の実の状態にする。
5)「石臼」丸抜きを石臼で挽き、そば粉にする。
6)「ふるい」大小様々な目の網でどのようなそば粉を作るかが決まる作業。
それぞれ行程がありますが、どこまで「念入りに」仕事をするか判断するのはその人次第ということになります。
総ての工程を理想どうりにとなると・・想像するだけで時間が足りなくなりそうです。
行程を一通り見せていただき、自分も少し作業をさせてもらうとあっという間に時間が過ぎ夜の部の開店時間です。
暖簾がかかるなら写真を撮ろうと外に出ると、さっそくお客様が。
仕事の邪魔になってはいけないので自分も客席に着きます。
メニューを拝見!
外一で提供してるんですね。
そばを打つ時にどのくらいの割合で「つなぎ」を入れるかはそのお店の考え方次第です。
つなぎも「小麦粉」が主ですが、「卵」や「とろろ」、珍しいものでは新潟の「ふのり」、長野の「おやまぼくち」青森の「大豆汁」など。
そのつなぎを蕎麦に対してどれぐらいの割合で配合するか。
それによってお店の味が変わると思います。例えば某チェーン店の立ち食いそば屋さんは五対五の割合。
一般的に言われる「二八そば」は、蕎麦8に対し小麦粉2。
外一(そといち)というのは蕎麦10(外)対小麦粉1(つなぎ)の割合になります。
(※卵やとろろ、ふのりなどの配合の知識が自分にはないので小麦粉だけの情報です)
蕎麦前(お酒のおつまみ)もリーズナブルでお酒が飲みたくなりますね。
いつのまにか席は埋まり、皆さん思い思いに食事やお酒を楽しんでいます。
近くの席に、本を読みながらお酒を楽しむパリッとしたスーツのお客様が。
どうやら常連様のご様子で、そばの話しで盛り上がりました。
お酒を楽しむ人と仲良くなってしまう、いつもの自分が出てしまいます。
少し遠いところにお住まいのようですが、帰りはいつも代行さんをお願いするそう。
「ここのそばは本当に美味しい。鴨もまた酒のアテにいいよ」
遠いところからも通われる常連のお客様に、こんな風に褒められたいものです。また、そんな話を聞いてしまうと自分も頼みたくなります笑
おそばが来ました!
角が立った美しいおそば。丁寧に、大事に打たれているのが伝わります。
食べると見た目以上に気持ちが籠っているのがわかります。
そばの甘さや食感・・
箸で手繰り、唇で啜り、そばつゆと口の中で一度一緒になる。
つゆの風味や塩分、香りがほのかに残る中、良い歯触りのそばを噛みほぐしていくと
「美味しいそばを食べてもらいたい」という阿部さんの想いが伝わってきます。
「今日は鴨の新商品を出そうと思って、試作品があるんです。仕込みが多く作れないのが難点」と。
綺麗な肉の色をした「鴨ロースの燻製!」
肉厚なのに、柔らかく、またお酒も進む一品!これは美味しいな~!商品化したら間違いなく人気商品になります!(この記事を書く頃にはメニュー化してるかもしれませんよ)
今度は「生粉打ち」!
「常陸秋そばの食感を活かすために若干細打ちにしたのです」
「切ったおそばの裏側も綺麗に揃っている、凛としたそばを目指している」
そんな阿部さんの言葉通りのそばです。
生粉打ち(きこうち:つなぎを使わない蕎麦100パーセント)でも綺麗につながっています。
「そば粉の良し悪しは、石臼だけではなく『ふるい』にあるんです」との言葉。
果たしてどれだけ研究すればそこまで行き着くのか・・
食べ終わる頃にはお客様も皆さんお帰りになり、閉店の時間です。
ふと、見上げると額の中にこんな言葉。
店主の想いが溢れ出ています。
更に聞けば、この言葉にたどり着いた時の次の言葉もあるとか・・
「まだそこには程遠いので」と言われますが、どんな言葉なのか。そこにたどり着いた時いつか見てみたいです。
あ、そういえば去年中ごろに出た自家製粉の本があります。
多くの有名店と共に「ことぶき」さんも。
(もちろん自分も勉強のために買いました笑)
今後も同業者の皆さんから注目されるお店であること間違いないです。
手打 玄蕎麦 ことぶき
http://sobaweb.com/report/gunma/post_672.html
この記事を書いた人
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埼玉県川越市の郊外で両親が創業した蕎麦屋を営んでいます。
料理人の気持ちのこもったお店や料理を探す、食べ歩きが大好きです。
ヒトサラのページ
http://hitosara.com/0002100566/
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