神奈川県海老名市。「お店に関わる全ての人が主役!」国分寺そば・後編

   

読者の皆さん、こんにちは!

前回、記事が長すぎて途中で区切ってしまった「国分寺そば」さんの続きになります。

開店から夜の部まで、長時間おじゃましていたので記事にして伝えたい事がたくさんありすぎて書ききれないぐらいなのです。

文章をわかりやすく伝わるように書くのって、これほどまで大変だとは思いませんでした。

前編を振り返って読んでみても「すごい!すごい!」と言ってるだけで、何がどのようにすごいのか。

読んでいる人にはどう伝わっているんだろう、と考えてしまいます。

今回の後編はそのあたりも気にしながら書いてみますね!

前編はこちら

http://saimen.or.jp/blog/2017/10/22/post-2426/

 

 

神奈川県 海老名市「国分寺そば」(後編)

 

11時の開店時間にお邪魔して、スタッフの活き活きとした働きぶりや、計算され尽くした効率的な厨房。お客様が食事の時間を楽しめる工夫や働く人が苦にならないたくさんのアイデアに、「ふむふむ。なるほど~!」と思っているうちにあっという間に時間が過ぎていきます。

お客様の流れがだいぶ緩やかになってきました。

え?!もう2時半ですか!驚!

1時間も経っていないかのような感覚になります。

あ、でも脳みそがだいぶ疲れてる・・ってことはかなりの情報量がこの時間で詰め込まれた証拠です。

 

「さてと、昼時の厨房はこんな感じだよ。そろそろお腹も空いてるだろうし食事にしよう!」

と、市川さん。

お~!ナイスなタイミングです!

 

厨房で集中している時は気が付かなかったのに、気が緩むと腹ペコモードにまっしぐら!

「よーし!先ほど工程を見せてもらった、あれとアレと・・」

食べたいものがたくさん頭に浮かびますが、落ち着け!まずはメニューを見よう!と気を取り直します。

 

女優さんのような優雅な物腰で、笑顔のスタッフに連れられ客席に。

周りにはまだ食事中のお客様が楽しそうにしています。

 

メニューを拝見。

 

悩んでしまうメニューの豊富さ!

ランチの「野菜天ぷら定食」は、天ぷら・そば・ご飯・サラダ・豆腐にデザートまで付いて1,200円というコストパフォーマンス!間に合えば間違いなくこのメニューだったのですが、ランチは14時までです。

季節のメニューは別の用紙に。

実はこのメニューは総て店主、市川さんの手書きだという事!素敵な字を書かれるのですね~!

力強さ、繊細さを持ち合わせた感じが伝わります。

人柄が現れていますね!

豆腐を手づくりしている国分寺そばさんならではの豆腐料理のバリエーション。

「うわぁ・・肉豆腐・・これも食べたい・・」

寒い季節には湯豆腐なんか、熱燗のお供に最高ですね!

 

穴子の天ぷらも800円とリーズナブル。

 

んん~・・鴨御膳も気になります。

しかし、結局初心に帰り、厨房で見せていただいて食べたいと思っていた物を注文します。

 

先ずは「生揚げステーキ」!

アツアツに焼いた鉄板で、醤油をジュワッと香り立たせる例の物ですね!(前編参照)

おかかがふんだんに盛られた生揚げにスタッフが醤油をかけてくれます。

香ばしい、焼けた醤油とおかかのいい香りが店内に広がり、

(どうだい!どうだい!この香り!皆さんも食べたくなっちゃうでしょ?)と、隣のお客様をちらり!!というかドヤ顔で。笑

 

お子様連れの若いご夫婦。

なんと、そのテーブルには食べ終わった生揚げステーキの器が・・・

 

しばし、自分の時が止まりました・・笑

 

香ばしい醤油が香る、アツアツの生揚げ。ほんとに美味しかったです!

車でなければ一杯いきたかったですね。

続いて、柔らかく炊かれたゴボウが甘辛のタレに絡み、白飯を欲してしまう「肉巻きゴボウ」!

豚バラ肉とゴボウが、食感を残しつつも一体になって噛み切れて。タレがしっかり絡まり、肉のコクとゴボウの風味。いやあ、絶品です。

ますます夜に飲みに来たくなります!

 

このゴボウの肉巻きを始め、料理の数々を仕込みし、調理しているのは、実は市川さんのご息女。

前編の厨房でガス台のポジションを任されていた方です。

見学中も多くの事を教えていただきました。

このゴボウの料理もその一つ。

「こうやって調理して、このように保存。そして提供する時はこのようにするとスムーズです」

父上に引けを取らない丁寧でわかりやすい説明。

(若いのに素晴らしい存在感ですね!)

そんな説明を受けたり、盛り付ける様を見ていたら興味が湧かない訳がないです。

そして、メインは天丼です!

すべてのご飯ものにしっかり「おそば」が付いてくるのは嬉しいですよね!

お客様が嬉しいと思う事。それをしっかり形にする。これは参考になります!

海老の天ぷらが二本も!野菜が三種。そして自家製粉の「おそば」まで楽しめて、この金額は「お値打ち」だな~と一人ご満悦。

きっと多くのお客様も大満足間違いなしですね!

 

  • 入店前からの心配り。(駐車場の案内や誘導)
  • エントランスから店内に入る間の空間作り。(都会の喧騒を忘れさせる生花や草木。インテリアの設え)
  • 出迎えるホールスタッフの笑顔や物腰。(常に優しい笑顔で、慌てたり戸惑ったりすることなく。静かではあるけれど決してダラダラせずに、お客様に違和感を覚えさせない歩き方や配膳の所作)
  • 料理の提供を出来るだけ待たせないように考え尽くされた行程。(料理の行程に合わせた厨房設備の配置など)

その他にも、エントランスの待ち合い所には蚊取り線香が焚かれていたり、お箸も高級な塗り物。ほこりが積もりやすい場所もガラス窓も。お客様が絶対触るメニューブックまでもピカピカで、細部まで心配りが行き届いていると感嘆しました!

「料理が美味しいのは当たり前。お客様はその他の多くの事も含めて次の来店を判断するんだよ」

という市川さんの言葉が体現されています。

これだけのおもてなしを考えると、料理の金額を考えた時にとてもリーズナブルに感じるはずです。

料理の金額って、材料の原価や調理技術。光熱費だけでなく、その料理を食べてお帰りになるまでに触れる、様々な「物」であったり、「雰囲気」であったり、「人」なのだと気付かされます。

 

心配りが行き届いてる飲食店って、「オーラ」が出てるんですよね。

僕自身、食べ歩きが大好きなのでお店が醸し出す雰囲気も選択する「ものさし」の一つです。

「貴方を喜んでお迎えしますので、是非当店で召し上がってください」という雰囲気。

小さなお店、古い建物のお店だったとしても。

そのお店の心配りが、店先を通りがかった貴方の琴線に触れます。

「入った事ないんだけど、あそこのお店。いつも気になるんだよね」って。

その直感は大体当たっていますよ。ぜひ入ってみてはいかがでしょうか。

 

市川さんは、休日に奥様と二人でそのような心配りが勉強できるレストランや旅館に行くそうです。

 

そんな経験した事や今後の方針の意識の共有

食事を終えると、市川さんと奥様がわざわざ席に来てくれました。

(お忙しいのに申し訳ないです)

「こんなに多くの事を一度に勉強できたのは久しぶりです。ありがとうございます」

お店はすでに休憩時間、昼の部を振り返りながら色んなアドバイスを受けていると、

「社長、お客様です」とスタッフの方。

業者の方を始め、地域団体の方などいろんな人が市川さんに会いにきます。

 

その間、女将さんの節子さんがお相手してくれます。

あまりに話しやすいので、ついつい自分の店の愚痴が出始めました。

聞き上手とはこうゆう人の事を言うのでしょう。振り返ると恥ずかしくなるような事まで問われてもいないのに自分から話してしまいます。

一通り聞き終えて、

「私達も喧嘩ばかりしてましたよ。毎日のように。今はお互いの仕事に口を出さないように決めてます。それからは喧嘩もしなくなりました」

と、微笑む節子さん。

市川さんが二十歳の時に先代が急逝し、その後お二人でこの「国分寺そば」さんを栄え続けられたのはご夫婦の信頼関係があってこそなのだと思いました。

 

「目標に向かう意識の共有」は企業でも、組織でも個人店だとしても、それができているかいないかの差は目をつむっていてもわかる事です。

それが夫婦で。家族で共有し、家族同然のスタッフ皆も共有し合えば怖いものなしですね!

 

市川さんご夫妻が、旅行に行って

「この雰囲気ステキね、うちの店もこんな風にしたらお客様が喜ぶんじゃない?」

「うん、そうだね!これはいい!早速明日皆に伝えよう!」

そんな会話をするお二人を勝手に想像してしまいます。

 

スタッフを信頼して仕事を任せる

市川さんに話しをしたくて会いに来る方がひっきりなしに来訪します。

邪魔をしてはいけないのでこっそり厨房に戻ると、残っているスタッフで仕込みをしていました。

営業中の雰囲気とは変わって、素の顔で談笑しながら「そばコロッケ」の仕込みをしています。

 

スタッフに仕込みを任せられるなんて!

僕もそうなのですが、「出来るようになるまで教えるより、自分が作った方が早い」と思うため、パートさんやアルバイトさんに自分がこだわっている仕事を任せてきませんでした。

でも、それはやり方によって多くの事が違ってくると感じました。

例えば、フランチャイズの多店舗経営をする人は「クオリティが多少低くなっても良い」と考えスタッフ皆で出来るように簡略化する店舗もあるかと思います。

ですが、逆に「このクオリティまで皆で出来るようになったら最高だよね!」と、高品質な状態に出来上がるまでの工程をどんな人にでもわかるように考えて形にしていく。

 

国分寺そばさんは後者の考えですが、それってものすごい労力が必要なのです。

飲食店経験者ならまだしも、未経験の人が出来るようになるまでの時間は果てしなく長く感じてしまいます。

でも、それを乗り越えられれば、自分は他の仕事が出来るし、また、出来るようになったスタッフも自信が持てて意欲や責任感を持って仕事に臨んでくれます。

 

事実、まさに今、その状況にいる僕なのです。

両親と仕事をしているのですが、二人とも高齢になり昔のような仕事が出来なくなってきています。

すると、自分の負担する仕事が増えてくる。

今まで3(人)分の1だった仕事が日を追うごとに増えてくるのです。

これはまずい!と、今まで任せてこなかった仕事をスタッフに教えました

そうしたら、楽しそうに一生懸命覚えてくれるんです。

「もっと早く教えてあげればよかった」と思いました。

つい、自分で(経営者側で)出来てしまう事だから教えずに過ぎてしまいましたが、もし、自分がそばを打てなくなるような怪我をした時、しばらく休業しなければならないかもしれないです。

そんな時にお客様に提供しても問題が無いレベルのそば打ちができるスタッフがいたら、きっと僕は店を営業して、そのスタッフに特別手当を出してでも打ってもらうはずです。

 

浅い思考かもしれませんし、今頃そんな事に気が付いたのかと言われるかもしれませんが、リスクマネジメントとしてとても重要な事象なのではないかと思いました。

もちろん、そのレベルに育ってもらうまでの時間は、先ほど挙げたように大変な労力です。自分の時間を削って教え、その上給料を払って・・・。

未来への投資だと思いながら試行錯誤しています笑

 

大学生のアルバイトさんのレベル

昼間のスタッフと変わり、夜の営業時間は大学生が大半と様変わりします。

今日は女将さんの節子さんはお昼の営業だけ。

厨房も職人さんや責任者がいません。

替りに長年勤めるホールスタッフの方が二人で分担して担当している様子・・

 

「大丈夫、僕がいなくてもお店を任せられるスタッフだから。」と市川さん。

そう言われても・・確かにホールには女将さんの教えを教授している人がいるから問題無いとは思うのですが、厨房は大学生だけじゃないですか・・と、内心心配になる自分。

ですが、よく観察しているとおしゃべりをしながらも仕事はしっかりこなしている・・

実はこれ。経験を積まないとなかなかできない事なんです。

「今日の部活で」とか「あの講義はさ」と、日常会話をしていると通常、身体もその会話に合った動きをするのが普通の人だと今までの経験で感じてきた事です。

自分達職人は会話の内容と正反対であろうとも、「身体は仕事」をしつつも頭(脳)は四方八方、「あらゆるところへ気を向ける」事が長年の経験で鍛えられています。(職人さんの中でも、寿司屋のカウンターに立つ板前さんの例を挙げると、「大体7~8人のお客様のオーダーの記憶と注文の暗算ができますよ。そのぐらいができないと板場を任されません」という驚愕の域まで!その上世間話や他のお客様に意識を配れるのだから本当に尊敬します)

だから料理をしながらもお客様との会話ができるのですが、それなのに。

職人でない大学生でも出来てしまうのか!!

 

オーダーが通ると一瞬でその大学生達の表情が変わります。

その子達の持ち合わせいてる才能なのか。はたまた教えの成せる事なのか。

職人さん顔負けの料理を提供し、また普段の大学生の顔に戻ります。

天ぷらなども揚げ方や盛り付けを見せてもらいましたが、即戦力で働いてもらえるレベルです。

 

話しかけてみると自分の店で働くアルバイトの子達となんら変わらぬ普通の大学生。

嬉しそうに、

「このTシャツ、僕達しか持ってないんですよ!」

たくましい腕を見せながら、

「最近の僕達の流行は筋トレなんです!」と話す普通の大学生の男の子達。

そんな若者達を、いったいどうやって教えたらここまで育てられるのだろう・・

 

「今日、娘はいないけど仕込みなどの簡単な指示はメモに残しておいて、経験値がある子をリーダーにして任せてるんだ。出来る子が下の子に教えながら、みんなどんどん仕事を覚える」

「素材の発注も、本当はある程度まとめて担当者を決めた方が楽なんだけど、細かく分けて一人一人に割り当てをして任せる事で責任感やその素材に愛着を持ってもらえるようになるんだよ」

 

と言う市川さん。

どこまで働く人達の事を考えているのか・・市川さんの頭の中を覗いてみたくなります・・

 

接客の要の女将さん。

その女将さんを目指し、フォローするホールスタッフの皆さん。

ホールスタッフを裏(厨房)で支える洗い場の人や中継ぎの人。

厨房の調理スタッフ。

そして、その総ての人達に気を配る大将の市川さん。

 

この記事を書いていて、ふと思ったことがあります。

飲食店を細分化しないで総称するとレストラン事業と考える最近の自分なのですが、レストランって「チームワーク」をもって「最高」を表現できる仕事なのではないかと思っています。

(ちょっと伝わりにくいです汗、よりつっこんだ内容はコメントいただければそちらでお話します)

 

組織図や人間関係を図にすると、ピラミッド型や逆ピラミッドで書かれることが多いと思うのですが、この記事を書いていて、国分寺そばさんの組織図は『円』じゃないか??って思ったんです!

上に挙げた人間関係が、どの人も欠かす事ができないし、誰かが特別優位にいる訳でもない関係性。

だから「和」が産まれて居心地がいいのだろうか。

これは「とてつもない発見」をしたような気がしてならないです。

 

帰り道の運転中、見た事聞いた事。反復しながら、毎日が楽しくて、スポンジのように何でも吸収してしまう修業時代の自分を思い出した特別な日になりました。

 

追記

国分寺そばさんで学んだ事を落とし込んでみました。

「すだれの結び目はアロンアルファで固定する」

パートさんにお願いしてやってもらったところ、とてつもない効果です!

今までは一か月に何十枚もある「すだれ」の何枚かは、ほつれたりほどけたりして、暇な時間に修理していましたが、アロンアルファで固定して以来4か月間、修理0枚!!という成果!!

 

「働き手が集まらない?周辺の飲食店の時給よりもっと上げなさい。スタッフが増えた分売り上げも伸びるから!」

国分寺そばさんほどの時給は出せませんが、全体の時給を上げたことにより、「この店で働きたい!勉強させて欲しい!」という若者達がこのところ来てくれています。人手不足のご時世で、本当にありがたい事です。

売上が伸びるかは今後楽しみですね。

 

「何よりも代えがたい自分自身の考え方の変化」

前編に続き、変化其の三に加えたい事です。自分がぼんやりと感じていた「働いてくれるスタッフは仲間や家族も同然」とか、「地域に貢献すると商売に返ってくる」という事を成功体験として示してくれたことにより、「僕の考えていたことは間違いじゃなかったんだ!」と再認識して自信が持てた事。

まだまだ、落とし込んでいない勉強したことがあるのでそれを実践していかなくてはですね!

 

最後になりますが、市川さんがそば屋の組合に入った経緯、今後の考えを聞きました。

「入った理由は断れなかったという感じだけれど、デメリットは感じてないかな。メリットはたくさんの同業者と知り合えること。基本的にこの業界が好きだし、業界のPRもしていきたい。後継者問題などの継承問題にも一肌脱げたら幸いです」と語る市川さん。

神奈川県の組合での勉強会や、そば屋さんを越えて飲食店の経営勉強会での講師も務められています。

 

少ししか知り合っていない自分にも、たくさんの教えをいただき本当にありがたく思います。

その時間が無駄にならないように精進しますので、いつまでも若い人達のお手本でいてください!

 

 

国分寺そば

〒243-0405

住所:神奈川県海老名市国分南1-8-35

電話:046-231-2261

定休日:月・火(祭日は昼のみ営業)

駐車場:30台

 

ホームページ

http://www.kokubunji.co.jp/index.php?FrontPage

 

Facebookページ(なんと1000いいね越え!!)

https://www.facebook.com/国分寺そば-469433483081007/

 

アド街ック天国のページ

http://www.tv-tokyo.co.jp/travel/entry/bwImM/32015/

 

この記事を書いた人

松本 英利そば御膳 むさしや  店長
埼玉県川越市の郊外で両親が創業した蕎麦屋を営んでいます。

料理人の気持ちのこもったお店や料理を探す、食べ歩きが大好きです。

ヒトサラのページ
http://hitosara.com/0002100566/

Facebookのページ
https://www.facebook.com/kawagoe.soba/?ref=bookmarks

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