おそばの「旬」に新しいブーム!「成熟そば」のお話し。

   

読者の皆さん。大変ご無沙汰しています。

ライターの仲間もそれぞれ本業が忙しく、なかなか記事が書けずにいました。

先日、会議があったのですが、その時に聞いた話しを皆さんにお伝えしなくてはいけない!

と、思い立ち。久しぶりの投稿になります。

 

以前、おそばの旬に関する記事を書いたのを覚えてる方もいらっしゃるかと思います。

こちら

http://saimen.or.jp/blog/2016/08/04/post-1090/

 

この記事は「新そば」に関する内容で、特に夏の新そばを皆さんに知ってもらうための記事です。

「需要が多い夏でも品質の良い新そばがあるんですよ」という内容でした。

 

今回は。

もっと踏み込んで、「おそばが一番美味しい時期」に関してお話しします。

 

数日前、「成熟そばに賛同してくれるそば屋さんを探しています。神奈川のそば屋さんの一声で始めた事なのですが、埼玉県の皆さんはいかがでしょうか?」

と、製粉業者の方から連絡がきました。

 

熟成そばは近年聞くことが多くなりましたが、「成熟そば」だということ。

話しを伺うと、

蕎麦は無限伸育成(むげんしんいくせい)といわれる種で、一斉に実って熟すものではないのです。

花が結実したものから順番に実になり黒くなって熟していきます(黒化=熟すほどに殻が黒くなっていく様)。

総ての実が黒化するのを待っていると、米などの品種とは異なり熟した物から実が落ちてしまうので、ある程度の段階で収穫率を落とさないように収穫するのが「新そば」です。

(ちなみに「新そば」の定義も「次の新そばが収穫できるまでが新そばです」という教えをいただきました。大晦日や正月には新そばのポスターをはがしているお店が多かったのに。ちょっとした驚きでした)

仮に100%の実が熟すまで刈り取りをしなければ、大幅に収穫量が減るのでその蕎麦は2倍・3倍もの金額になっていくのは想像できます。

とあるレポートをネット上で拝見したところ、「これは生産者にとって大きな問題だな」と考えさせられました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hokurikucs/52/0/52_11/_pdf

https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/noken/seika/h19pdf/documents/13.pdf

 

僕達そば屋は蕎麦農家さんがいなければ商売が成り立ちません。

生産者がそばの生産を末永く続けてもらうためには、農家さんの商売が成り立っていないと困ります。

ですので、農家さんが一番良いタイミングで収穫してもらっているのものが「新そば」として流通しています。

 

江戸時代の「初物」「新物」好きな文化が受け継がれて400年以上。

縁起が良いと、好まれていた文化ですね。

初鰹・新さんま・鮭・なすび・たけのこ・松茸。

お米やお茶葉もそうですし、日本酒も。

ワインのボージョレー・ヌーヴォーなども「新物」好きな文化が後押ししたような気もしなくはないです。

なぜって、本国フランスよりも日本の消費量が4倍って言われるとそう思わざるをえません。

 

だけど、一年で一番美味しいの?

 

というと、それぞれそうでもないのが現状です。

魚類は脂がのっている時期の方がいいという人もいるし。(初鰹より秋の戻り鰹のほうが脂がのっている)

ボージョレー・ヌーヴォーはその年のブドウの出来具合を見るための試飲用だったり。

個人の好みの問題も大いに関係しているとは思いますが。

 

「新そば」って、初鰹やボージョレー・ヌーヴォーに似通ったところがあります。

・色鮮やかで

・味・香りともにフレッシュ(新鮮という意味合いよりも、若々しい・軽やか。というイメージ)

・それらを踏まえ逆に、「濃厚さ」や「奥深さ」に欠ける。

 

どうでしょう?

そんなイメージありませんか?

もちろんフレッシュな「新そば」が美味しくないとは言いません。

あの、爽やかで若々しい「新そば」を毎年心待ちにしているのは、そば好きの人だけでなく、そば屋さん全員もそうなのです。

一年で最初の新そばを打つ時は、さわって。香りを嗅いで。

「今年の出来はどうかな?」、「良い色だ。例年よりも若干締まるな」、「お~。新そばの香り!今年もお客様に喜んでもらえるな!」、なんて。

いつも以上に気合が入って、お客様よりも先に楽しんでいたりします。

 

じゃあ、そう言うなら「濃厚」で「奥深い」蕎麦は何時食べれるの?

ってなりますよね。

調べたところ、鍵になるのは、

「無限伸育性」

「玄蕎麦は生きている」

「保存方法」

 

ではないかと考えます。

前出の製粉業者さんも、「科学的根拠は提示できませんが、前述を踏まえると間違いないかと思います」と、

仰っていました。

 

 

まず「無限伸育性」

実のなる植物は、花が咲くと栄養を実に集中させるために他の部分の成長を止めるのが、稲などの有限伸育性の部類。

逆にそばやトマトは実がなっても成長を止めない。これらを無限伸育性の部類。

(かなり簡潔にまとめ過ぎてすいません。学者ではないので難しい言葉を説明できませんでした)

 

なので、熟しているものも、若いものも混在する収穫の方法にならざるをえません。

まだ、熟してない実があるけれど、実が落ちないうちに一緒に刈り取ろう。

という感じでしょうか。

 

じゃあ、成熟してないじゃないか!

という質問がありそうですが、ここからです。

 

「玄蕎麦は生きている」

刈り取った「そば」。その状態から「劣化」していくのかと思いきや。

黒く堅い鎧をまとった玄蕎麦は生きているのだそうです!

 

以前、山形のそば屋さんに行った時の記事にも書きましたが、

「天保そば」という、1833年の天保の大飢饉の時に、後世の人々にこんな思いをしてほしくないと保存された玄蕎麦が福島県の古民家の屋根裏で見つかり、その種を山形のそば屋さん達が現代に甦らせたという。

実際にあったお話しです。

 

 

刈り取って、乾燥させて。すぐに蕎麦粉にするものもあれば。

玄蕎麦の状態で、その出番まで待っているそばもいるということ。

すぐに全てのそばを製粉してそば粉にしなくてはいけない訳ではないので。

その需要に対して丸抜き(殻をとったもの)にしたり、粉になったりするということです。

そのそばは出番を待ちながら成熟していきます。

 

「保存方法」が肝心

江戸時代より、蕎麦切りが始まって、だいぶいろんなことが変わりました。

今でも石臼で粉を挽いているお店が多数で、それは当時と変わらないのかもしれません。

大きく変わったのは保存方法で、冷蔵庫の普及から、さらには高湿冷蔵庫。専門業者はもっと「そば」に適した機材を使い、新そばと夏場に悪くなるそばの差が少なくなってきています。

 

ここで、ちょっと考えてみたいのが「寒晒しそば」という製法です。

収穫したそばを、凍らない程度の川の水に一週間ほど浸すことにより、甘みを増して・えぐみを取るという、かなり手のかかる製法です。

有名なところでは、長野・山形地方・福島会津。となりますが、インターネットで検索すると、宮城や栃木などもでてきて今では日本全国に普及しつつある、美味しいそばの製法なのだと感じます。

 

北海道の生産者の方によると、

米やじゃがいもなどもこの時期が一番美味しく感じます。

寒さでそのもの自身が凍らないように、凍ってしまうと細胞組織が破壊してしまうので、でんぷん質が糖化して自身を守ると教えられました。

保管の温度が高すぎると自身の呼吸によって内部の栄養を取られて疲弊と劣化し、低すぎると凍結によって細胞組織がダメージを受けてしまう。

農産品の保管はそれぞれの組成に合わせて温度や湿度を決める。という感じです。

そばの場合はマイナス2度まで。とのこと。

 

冷蔵庫などがなかった江戸時代にこのような寒晒しという方法を行っていた。

ということは、その時代から若い新そばよりも、成熟した物の方が美味しいという事に気が付いていた!

これは・・もっと早く気が付かなければいけませんでした。

いろいろ調べていて自分も改めて知ることが多かったです。

 

農家さんや専門業者の皆さんは、その年に収穫したそばを良い状態で保管しています。

なので、収穫したばかりの新そばよりも、年を越した2月、3月あたりから甘みや風味が強くなってきます。

 

数十年前までは今のような環境で保管できなかったため、収穫したばかりの「新そばが良い」とされてきたのだと思います。

 

実は、そばに関わる多くの人が出始めの新そばよりも2月・3月の物の方が味が濃いと気付いていました。

そば屋さんの間でもその話しが多く聞かれます。

そば組合や、個人的に付き合いのあるそば屋の皆さんが口をそろえて同じようなお話しをします。

 

「それでも今、世の中の通説は新そばがうまいんだ。となっている。本当の美味しいそばの時期を日本中に知って欲しい」

 

と、動き出したのは川崎市の有名店「幸町満留賀」の野田さん。

同じく同市の人気店「石臼挽きそば 長寿庵」の浅野さんと共に2015年から「成熟そば」の活動を始められました。

 

幸町満留賀さん

http://www.maruka-soba.com/blog/2015/02/post-17.php

石臼挽きそば 長寿庵さん

http://www.osoba.co.jp/honnten/

 

 

他にも同じように考えているそば屋さんが多いのです。

ネット上でたくさん出てきます。

茨城県大洗の「手打ちそば 常陸屋」の飛田さん。水戸市のそば屋さんの間でも同じ意見だということ。

http://teutisoba.com/archives/645

 

そばの最大生産地、北海道の幌加内そば街道の皆さん。「冬そば」と銘打っているそうです。

http://menkaido.com/soba/

 

あの片山虎之助さんも。「この時期のそばを食べなければ、そば好きとして産まれてきた甲斐が無い」とまで!

http://sobaweb.com/magazine/200854/

 

なんか、この感じは新しい文化が産まれる前の雰囲気があります。

 

幸町満留賀の野田さんが、

「この事に気が付いたのは修行時代なのですが、当時は怒られちゃいまして。それ以降は胸の内にしまっていたのです。でも、やはり自分が正しいと思う事を貫きたいと始めました。

これの難しいところは、始めと引き際で、それぞれの店主の感覚に頼るのみです。

例年その時期に三日連続で味が乗ってきたと感じたらのぼりを出すのですが、今年はまだ出していません。

なのに、お客様から「今日のはかなり味が乗ってるからもう出していいんじゃない?」と言われるぐらい認知されています。このそばの美味しい時期を広める事業はもっと年数が必要だと思っていましたが、予想以上に早く進んでいます。」と話されていました。

 

いろんな事象に当てはまるのですが、「今までと違う事をしよう」とすると、大抵今までの事を信じる人達からの批判を受けます。

僕自身も同じような事がたくさんありました。

それはとても苦しく、辛い事なのですが、「これは大事なことだから皆に伝えなければいけない。どんな矢面にも立つ覚悟です」と、そこまでの想いで始められた「成熟そば」

いつの日か、多くの人達に成熟そばを知ってもらうまで諦めない覚悟を直接聞きました。

 

 

自分がいろいろと調べた感じではそば業界に携わっている多くの人が同じように思っています。

今までの美味しいと思われていた新そばが、年を越し。成熟してより一層美味しいそばになるという事を。

そばに関わっている多くの人が感じている。

 

これはすごく大きい流れだと思います。

長い記事を読んでいただきありがとうございます。

この記事を書いているのがちょうど2月。日本全国のそばが成熟を始める時期。

是非、この記事を読んだ皆様には体験して欲しいです。

そして新しい文化を共に感じていただけたら嬉しく思います。

 

こののぼりが目印ですよ!

 

 

最後に、情報や写真を提供していただいた皆様。とても助かりました。ありがとうございます!

 

北海道蘭越町 ファームトピア様

http://farmtopia.jp/

 

群馬県館林市 玄蕎麦ことぶき様

http://saimen.or.jp/blog/2017/04/06/post-2014/

 

山形県蔵王市 三百坊様

http://300bou.net/

この記事を書いた人

松本 英利そば御膳 むさしや  店長
埼玉県川越市の郊外で両親が創業した蕎麦屋を営んでいます。

料理人の気持ちのこもったお店や料理を探す、食べ歩きが大好きです。

ヒトサラのページ
http://hitosara.com/0002100566/

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